ColumnTOP Corner☆FlagTop

ポゼッションサッカー 2003.4.17

今期のミランがイタリアでは異色と言われるのはこのポゼッションサッカーを基本戦術と しているからだ。ボールを奪ったら手数をかけずにゴール前へと運ぶサッカーが主流の セリエAにおいて、確かにミランのそれは違う空気を持っている。逆にヨーロッパの舞台 では、イタリアのチームの戦術はどちらかと言うと少数派だ。スペインリーグなどを上位で 終えて、ヨーロッパの舞台に出てくるチームはどこもポゼッションを大事にするからだ。 この辺りに「イタリア=守備的」といったイメージを生む原因があるのではなかろうか。

確かに、「ポゼッションサッカー=攻撃的」というのは、それほど間違っているとは思えない。 もちろん、1点リードで残り時間の少ない場面などでは、守備的なポゼッションサッカー というものも存在しうるのだが。では、逆に取ったら手数をかけずにゴール前へ運ぶサッカー は必ず守備的なのか。それは「否」だ。例えば、現在セリエAで首位を走り、CLでもベスト8 (余談だが私はこのベスト○という表記が好きではない。決勝に残ったチームが必ずしも その大会のベスト2チームとは考えがたいケースが数多く存在するからだ。)に残っている、 ユベントスの戦術を見てみよう。このチームはフィールドの自軍ゴールから見て4分の3 くらいの位置からきついプレスをかけて行き、高い位置でボールを奪い、速い攻めを展開し ゴールを奪う事を身上としている。単純に考えれば、高い位置に人数を割いてプレスに行くの だから、相手のFWはフリーとは言わないまでも、1対1の状況で浮いている場合が多いはずだ。 このリスクを犯してボールを奪いに行く戦術を守備的と言う事ができるだろうか。

この事は、日本代表の監督の前任者のフィリップ・トルシエのサッカーに対する議論の 答えを内包しているのでは無かろうかと感じる。通常、ラインディフェンスを敷くチームは どこも4バックを基本にしている。それを3人でやろうと言うのだから、図面上はおそろしく 攻撃的である。(後に、本人もその限界を感じたのか4バックに近いシステムにシフトして いくことになるのだが。)もちろん、彼がフランス代表の監督だったならば、このような戦術を 取ることは無いだろう。その決定的な違いはFWの力であろう。ボールを保持しながら 攻撃していくポゼッションサッカーは必然的に整った状態の守備ラインを崩すことが 求められる。その場合に、最後の最後ではFWの局面打破能力という要素が欠かせない。 その能力が日本のFWに欠けていると判断した段階で、彼はポゼッションサッカーを捨てた のではないかと思われるのだ。逆に、シドニー五輪に向けたチームでは、チームの能力と その世代での力比べで十分渡り合えると判断したのだろう。ポゼッションを大切にするチームを 作り上げている。彼の最大の誤算は、小野が大きな怪我をしてしまった事だったのであろう。 フル代表で見るならば、まずはしっかりとプレスをかけに行ける人間という尺度でメンバーを 選考していたのではないだろうか。中村俊輔落選の理由はそこにあると思うのだが。 現在のレッジーナでのプレーを2年前の今くらいの時期にできていれば、代表の不動のメンバー になっていてもおかしくは無かったのだろう。惜しいことだ。

さて、現在のジーコ監督は「黄金の4人」などと評される中盤を同時起用するなど、 「見た目から攻撃的な」サッカーを今のところ目指しているようだ。稲本、小野、中村、中田英の 4人の中盤の選手達のボール保持能力は世界レベルと言って差し支えないだろう。 だが、ここに危うさを感じるのでもある。ミランの中盤から前の布陣を見てみよう。 ピルロ、ガットゥーゾ、セードルフ、ルイコスタ、セルジーニョ(リバウド)、FW こう見た時に、1人だけ違和感を感じる選手がいないだろうか。そう、ガットゥーゾである。 ミランレベルのチームでさえ、中盤に1人は潰し屋的選手を置いている。確かに、テクニックも 無ければドリブル突破も無い、パスも無い選手なのだが、守備の局面では彼に助けられる部分は 非常に多い。また、セルジーニョというのはこの中ではウイング色の強い異色の選手だ。 彼がいない試合ではミランはサイドアタックがほとんどできず、無理矢理中央から攻めて、 手痛いカウンターを食らうというパターンに陥ることが多い。日本代表には、三都主という ウインガータイプの選手がいるが、もっと有効活用すべきだと感じる。また、福西、明神 戸田といったプレスマンの価値を再考する必要もあるのではないだろうか。必然的に、4人の内の 1人がベンチで試合を見守る場面が出てくるだろうが、ポゼッションサッカーを目指す以上は チームのバランスに気を使う必要があるために、それもやむを得ないのではないかと感じる。

最後にFWの話に触れてみると、ポゼッションサッカーで結果を出すチームには必ず 素晴らしい局面打破能力を持つFWがいる。フリーの状況など望むべくも無い。常に マーカーと競り合いながら結果を出せる選手がいるということだ。ミランではインザーギ、 シェフチェンコ。レアル・マドリーにいたっては、ロナウド、ラウール、モリエンテスといった、 世界でも最高レベルの選手の誰か1人がベンチから戦況を見守るのだ。こう考えていくと、 日本代表でポゼッションサッカーを展開しようとした時には、必ず当たる問題だろう。 ハンブルガーSVでプレーする高原、ベルギーでプレーする鈴木、いいパスが出てくるチームに 移籍して本領を発揮できるだろう、マリノスの久保あたりの選手の成長に期待したいところだ。

FootballColumnTOP
Home